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“successful aging(理想的な長寿)”という言葉で提唱した。この「理想的な長寿」を具現するには、つまり高齢になっても健全な社会生活を営むためには、自らが自分の力で移動できることが基本にある。いいかえれば、中高年者にとって、身体的には歩行能力が最も大きな課題となる。
このような観点から、高齢者を対象とした歩行の研究がこれまで数多く行われてきた(Mrargaria1978)。山本ら(1995)は、これまでの高齢者の歩行研究を次のようにまとめている。Himann(1988)は、Basseyら(1976)が開発した「3段階の歩行速度の平均速度から高齢者の体カレベルを推定するテスト」を基に、歩行速度が加齢とともに曲線的(上に凸)に低下することを報告した。Murryら(1964.1966.1969)は、高齢者の歩行パターンが若年者と異なることや、女性は男性より(身長や体重に関係なく)歩幅が短く歩調が早いこと、そして加齢に伴う変化は男性とほぼ同様で、高齢者ほど歩幅が小さく、両脚支持時間が長くゆっくり歩くことなどを明らかにした。
しかしながら、加齢に伴う体力低下が歩行能力に反映する、あるいは逆に歩行能力の低下が運動不足を引き起こし高齢者の体力低下に結びつく、という「体力と歩行能力の因果関係」(金子1995)は、明らかになっているわけではない。文明の発展によって身体活動量が極端に少なくなった今日では、循環器系に関わる成人病や骨粗鬆症などの問題がクローズアップされてきており、これらを予防し、ひいては寝たきり老人にならないために、体力と歩行能力の因果関係を明らかにすることは極めて重要になる。
そこで本研究では、中高年者を対象に、体幹および下肢のレジスタンストレーニングを課し、トレーニング前後の歩行の動作解析を行った。つまり、トレーニングによって歩行動作がどのように変化するのかを検討し、このトレーニング実験によって、金子が指摘する「体力と歩行動作との因果関係」を解き明かす糸口をつかもうとした。

研究方法

1)被検者:中高年者9名(平均47歳、範囲40〜58歳)、男子4名、女子5名。被検者の身体特性は、表1に示すとおりである。被検者は、東京在住で座業を主にしている者である。
2)トレーニング期間:1995/9/18〜12/16(12週間)
トレーニング条件:レジスタンストレーニングはトレーニングマシーンを用い、下肢および体幹の主要動作(レッグプレス、レッグカール、レッグエクステンション、アブドミナル、バックエクステンション)5種目について行った。負荷は60−80%1RM(アブドミナルは自重で20回)、2〜4セット/回、2〜3日/週という条件である。
3)筋力の測定1膝関節伸展・屈曲の等尺性筋力をCybex(Lumex社製)を用いて測定した。値はトルクをアーム長で除し、作用点に加わる力(単位kgw)とした。
4)歩行動作の解析1トレーニングの前と後に、被検者に体育館で通常歩行(Free walking)を行わせ、その動作を側方よりビデオカメラ(毎秒60フレーム)で撮影した。撮影条件は、図1に示すとおりである。動作の解析で選択した変数は、図2に示す運動学的な5変数と、ストライド・ピッチ・歩行速度の計8変数である。ただし、本研究のストライドとピッチは左右差による増減を除くために、左右1周期(2歩)を1サイクルとした。解析局面は、踵接地時(HC)・大転子が足関節の真上を通過する局面(MID)・つま先離地時(TTO)の計3局面とした。

結果と考察

トレーニング前後の膝伸展および屈曲筋力を表1に示した。トレーニングによって、膝伸展筋力が平均で45kgから53kgへ17%有意に増加し(表中の印a)、体重当たりでも伸展筋力は19%有意に増加した(同b)。しかし、他の変数:膝屈曲や体重などについてはトレーニングによる変化が認められなかった。
次に、歩行の動作の解析結果を表1の下段に示した。本実験で自由歩行(Free walking)を選んだのは、「筋力や瞬発力、柔軟性などを含む多くの体カテスト項目の成績が自由歩行の速度と高い相

 

 

 

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